ライティングとは – 絵作りで最も重要なパート
ライティングは絵作りにおいて非常に重要な役割を持っており,ライティングいかんによって絵の印象もガラッと変わり,無機質なCGでもより魅力的な見え方に仕上げることが出来るようになります.単に被写体の見え方だけでなく,感情を表現したり,ムーディでドラマティックな雰囲気をつくることができます.
ライティングを魅力的に仕上げる点においてはこの記事では扱いません.その前にCinema 4Dで扱うライトの種類や性質をざっくりと紹介していきます.
本記事ではCinema 4Dの標準・フィジカルレンダラーで扱うライトに絞って紹介します.サードパーティ製レンダラを使う場合は各レンダラ専用設計のライトを使うことがほとんどで,Cinema 4Dの標準ライトは互換性があまりないため,Cinema 4D標準レンダラーを使用しない場合はこの記事はあまり意味がないでしょう.それらサードパーティ製レンダラのお話はまた別の記事で出来ればと思っています.
次の画像はオブジェクトの質感はすべて同じものでライティング環境が異なるセットアップです.極端な例ですが,同じ質感でもライティングによって見え方,感じ方が随分異なるのが分かるかと思います.ライティングとは単にシーンや被写体を明るくすることが目的ではなく,どのようなライティングをすればより魅力的に見えるかをよく考える必要があります.
見逃しやすい点ですが広告写真やプロダクト写真,映画やドラマで魅力的なシーンだと感じた場合,影や反射の描写にも注目してみてください.ライトの役割は明るく照らすだけではなく,反射を作ったり,影をコントロールする役割も担っていますので,ライトの扱い方はよく研究されるのが良いでしょう.
ライトの種類と特長 – まずはこれだけ覚えよう
ライトの作成は,ライトアイコンから作成するのが一般的かと思いますが,メインメニューの「作成」→「ライト」から行ったり,コマンダー(Shift + C)から行ったりと方法は様々です.
はじめに,Cinema 4Dではデフォルト設定では作成したライトの多くは影を生成しない設定になっています.影を描画しないライトというのは現実的ではなく,CGならではと言えるでしょう.しかしCGといえども影を描画する方が自然です.もちろん,影を落とさないライトを必要とするケースもあるため,ケースバイケースで使い分ける機会も出てきますが,ライトを作成したらまずは影を描画する設定にした方が良いでしょう.
影の設定はライトを選択し,「一般」タブ→「影のタイプ」から変更できます.影のタイプは「なし」,「シャドウマップ(ソフト)」,「レイトレース(ハード)」,「エリア」から選択できます.それぞれの特徴を理解して目的に応じて使い分けます.※筆者はほとんどの場合において「エリア」を指定します.
なし | 影を描画しません. |
シャドウマップ(ソフト) | ぼけた影を描画します.シャドウマップは計算が早いというメリットはありますが,リアルさという点においては劣ります. |
レイトレース(ハード) | シャープな影を描画します.影は完全にシャープです.影をぼかしたい場合は使用しません. |
エリア | 最も自然な影を描画できますが,計算に時間がかかります.ライトの大きさを定義でき,それによってリアルな影を描画します.接地面はシャープな影ですが,距離に応じて徐々にボケる影になっています. エリアシャドウの大きさはライトの「詳細」タブの「エリア形状」およびその「サイズ」で設定できます.もしこれが大きなサイズだった場合,よりボケ幅の大きなエリアシャドウを生成します. |
続いてライトの種類を紹介しますが,種類はライトを選択して「一般」→「放射タイプ」から変更することができます.一般タブはライトの基本的なパラメータを設定します.ライトの色や強度もここで調整できます.より明るくしたい場合は強度は100%以上の値を設定できます.
ポイントライト
全方向に光を放射するライトで,最もベーシックなライトと言えます.Cinema 4Dの大半のライトそのものは大きさを持ちません.現実のライトは必ずフィラメントやダイオードなど,何かが発光することでライトとして機能しますが,大きさが無いとは,その発光元となる形状が無いことを意味します.大きさを持たないライトは,被写体に鏡面反射がある場合に映り込まないという問題が出てきます.そこで,スペキュラという疑似的な反射をマテリアルに持たせることで,ライトがある方向にあたかもライトが映り込んでいるようなものを描画する機能があります.スペキュラと鏡面反射は似ている言葉ですが,Cinema 4Dでは意味合いが異なります.
次の画像は二つの球体共に鏡面反射の金属質感ですが,左の球体にはスペキュラが設定してあります.そこへポイントライトでライティングを行ったものです.左側の球体上部に白いスペキュラが見えますが,右側には見えません.大きさを持たないライトではこのように鏡面反射に映り込まないのです.かといってスペキュラがあった方が良いか問うと,少し難しい問題です.理由としては,スペキュラ自体が疑似的な反射のため,もしフォトリアルな絵を描きたいと思った場合にはあまり適さないケースが多いためです.スペキュラの特性を理解して,ケースバイケースで使い分けるなど工夫が必要でしょう.
そもそも昨今の3DCGにおいて疑似的なスペキュラを用いることがあまりなく,使っても補助的に使うのが良いと思っています.最近のモダンレンダラはスペキュラのような疑似的反射設定がないものがほとんどですが,Cinema 4D標準レンダラはまだ残っているため,スペキュラと鏡面反射の違いをよく理解して使う必要があります.スペキュラはマテリアル側の話になりますが,ライトと密接にかかわっています.
スポットライト
照射範囲を調整できるライトです.ピンポイントで照明したい場合などに用います.スポットライトの場合,「詳細」タブから照射する角度を調整できるほか,ライトを選択してエディタ上にあるオレンジ色のドットをドラッグする事でも調整できます.こちらも大きさのないライトです.
エリアライト
大きさを持たせることが出来るライトで,鏡面反射に映り込ませることができます.ただし,デフォルト設定ではスペキュラのみ描画するため,「詳細」タブから「鏡面反射から見える」をオンにする必要があります.これで鏡面反射にもしっかりと映り込むライトになりますが,エリアライト最大の難点が一つあります.それはスペキュラを綺麗に描画できないという点です.
次はエリアライト一灯でレンダリングした画像です.マテリアルの設定は,
左の球体:スペキュラのみ
真ん中の球体:スペキュラ,鏡面反射共にあり
右の球体:スペキュラなしで,鏡面反射あり
スペキュラがある球体は斑点のようになっており,明らかに変ですね.真ん中の球体は鏡面反射があるため気づきにくいですが,反射の境界線には斑点が見られます.なぜこのようになるかというと,エリアライトは定義した大きさの中にポイントライトをたくさん配置して構成されるライトで,大きさそのものが発光しているわけではありません.大きさはあくまで反射だけです.ポイントライトはスペキュラしか描画できませんので,このようになってしまいます.回避策としては,「詳細」タブの「サンプル数」を上げるくらいしかできませんが,こちらも最大値まであげても完全になくなるわけではありません.「一般」タブで「スペキュラ」をオフにする手もあるでしょうが,いずれにしても少し扱いにくいというのが正直なところです.
エリアライトの代替えとしては,後述する発光するポリゴンライトがあり,こちらは上記のような問題はないのですがライトオブジェクト固有のオプション群は使えないのがデメリットでしょう.
このスペキュラ問題は初心者には特に躓く要素ではないかと思います.
筆者はポリゴンライトを使う場合が多いです.
無限遠ライト
太陽と同じ役割を持つライトで,光を平行に放射します.ライトの位置は無視されるため,ライトオブジェクトがどの座標位置にあろうとも関係ありません.光の向きはライトオブジェクトのZ軸の方向に放射されます.影も平行に落ちます.よりリアルな影を描画したい場合は,「影のタイプ」を「エリア」にして,「詳細」タブの「無限遠の角度」を調整します.これにより太陽から落ちる影とそのボケ具合をシミュレートできます.
このライトも大きさを持たないため,鏡面反射には映り込みません.
IESライト
Illuminating Engineering Society,略してIESライトは実際のライトで照らされた状態を測定した照明の分布データを記述したファイルを使って,データから実際の照明分布を再現するライトです.IESデータは照明器具メーカーから配布されているものもありますし,Cinema 4Dのアセットブラウザからも豊富なIESデータをダウンロードして利用できます.IESデータは,ライトの「フォトメトリック」タブの「配光データ」に読み込んで使用します.ライトの「強度」を調整するほか,「フォトメトリック強度」の「強度」からも調整可能です.
ポリゴンライト
ライトオブジェクトではなく,ポリゴンオブジェクトに割り当てた発光マテリアルを使ってライトとして機能させるものです.したがって他のライトオブジェクトとは扱いが異なります.また,発光マテリアルをライトとして機能させるためにはグローバルイルミネーションも使用する必要があるなど,使用条件も異なります.
1. グローバルイルミネーション(GI)を使う設定にする
グローバルイルミネーションを使用するためにはまずレンダリング設定(Ctrl + B)を開き,特殊効果のボタンをクリックするか,左列の空いている所を右クリックして,コンテキストメニューから「グローバルイルミネーション」を選択して追加します.
2. 発光マテリアルの設定
発光チャンネルをオンにして強度を設定します.これで発光マテリアルはライトとして機能します.
発光マテリアルをライトとして使う場合は,マテリアル設定の「GI設定」にある「ポリゴンライト」もオンにしておくとよいでしょう.このパラメータについての詳しい説明はここでは省きますが,オンにした方が色々とメリットがありケースあります.
空を使ったライティング(イメージベースドライティング)
空オブジェクトと発光マテリアルを組み合わせたライトですが,こちらも発光マテリアルを使用するためGIを併用する必要があります.ただし,ポリゴンライトはオンにしなくても大丈夫です.
空オブジェクトを作成し,発光マテリアルを適用します.発光チャンネルのテクスチャにはパノラマ画像を使用することがほとんどですが,使用するフォーマットは.hdrや.exrなどでより広い明るさの幅をもつハイダナミックレンジ画像が一般的です.Cinema 4Dのアセットブラウザにもすでに設定済みのマテリアルがいくつか用意されていますので「HDRI」で検索してそれらを使用してもよいですし,素材を購入してもよいでしょう.またはフリーの素材も良いものが沢山あります.
この手法はイメージベースドライティング(IBL)を呼ばれています.ライティングに疑似球体+HDR画像を用いるメリットは,画像の撮影環境のライティングを復元できることです.反射にも反映されるので,あたかも3Dオブジェクトが環境にあるかのように見えることです.この手法自体はかなり以前から使われていますが,今なお活用されています.
ライトの放射タイプはこれら以外にもありますが,主によく使うものは上記で紹介したものになるのではないかと思います.
ライトの減衰を設定するのを忘れずに!
最後にライトの種類ではないですが,リアルなライティングをするうえで欠かせないパラメータをここで紹介しておきます.現実世界において光源から放たれた光は距離を進むにつれてどんどん弱くなっていくものです.しかしCinema 4Dのライトの初期設定ではどこまでも一定の強度で光が届く設定になっているため,ケースによってはおかしな状況が出てきます.
光の減衰の設定は,ライトオブジェクトの「詳細」タブにある「減衰」を「逆2乗に反比例」に変更します.さらに「減衰基準距離」を任意の距離に設定します.光源から指定した距離離れた時点から光の減衰が始まるようになります.
自然なライティングをしたい場合は減衰の設定を逆2乗に反比例するのと,減衰基準距離の設定を忘れずに!