Part.4はマテリアルとライティングでコースティクスの表現を設定して,完成させていきます.
マテリアル
このシーンのマテリアル浮き輪,水面,プール底用の3つのみです.
浮き輪用マテリアル
マテリアルマネージャを開き(ショートカットShift+F2),「作成」→「マテリアル」→「標準」でRedshift標準マテリアルを作成します.マテリアルマネージャの空白をダブルクリックしても同様に作成できます.

作成したマテリアルをクリックして,「ベース特性」にある「カラー」を好みのカラーへ変更します.

水面用マテリアル
Redshift標準マテリアルを追加作成します.シンプルな水なので
「反射」の
「表面粗さ」…「0」
「屈折率」…「1.333」
「透過」の
「ウェイト」…「1」
とします.

プール底用マテリアル
こちらもRedshift標準マテリアルを作成して,
「反射」の
「ウェイト」…「0」
にします.反射しないマットな素材です.リアルさには欠けますが,レンダリング負荷を軽減するためにマットな素材にしています.
それぞれのマテリアルにはわかりやすい名前を付け,各オブジェクトにドラッグ&ドロップして適用していきます.

これでマテリアルは完成です.
ライティング
ライティングもとてもシンプルにドームライトと無限遠ライトのみで構成します.
ドームライトを作成する
ライトアイコンを長押しして,「ドームライト」をシーンに追加します.

ドームライトは仮想の空のライティングとして機能しますが,そのままでは真っ白なのでHDRIという空用のテクスチャを使用します.
HDRIはアセットブラウザに最初からいくつか用意されていますので,それを使うことにします.アセットブラウザを開きます.(ショートカットShift+F8)

アセットブラウザで「メディア」タブに切り替え,「レガシー」→「HDRIs」の中にある「HDDR009.hdr」をドームライトの「オブジェクト」タブにある「テクスチャ」の「ファイル名」にドラッグ&ドロップします.
MAXON ONEユーザーであればレガシーではない「HDRIs」からも多くのHDRIの選択肢があります.

ドームライトの
「露出(EV)」…「-1」
にします.

無限遠ライトを作成する
続いて「無限遠ライト」をシーンに追加します.

無限遠ライトは自身のZ方向に向けて平行な光(疑似的な太陽光)を放射しますので,ライトの角度を調整します.「座標」タブを開いて
「R.H」…「-45°」
「R.P」…「-45°」
とします.

「オブジェクト」タブを開いて
「露出(EV)」…「1.5」
にします.

RSレンダービューで確認してみる

この段階では次の画像のように普段私たちが見慣れているプールのイメージとはずいぶんとかけ離れた味気ない絵が出てしまいます.最たる理由の一つにこの絵にはコースティクスが無い,という点があります.

実は普段からよく見ることができる自然現象です.光が水やガラスなどを通ったときに,光の屈折による集光により「キラキラした模様や光の筋」のことです.現実的には水面を通過した光がプールの底にゆらゆら動く光の模様がそれになります.水面が波打っているので色々な方向に向かって屈折し,プールの底に光が集まっている箇所とそうでない部分があり,たくさん集まっている箇所が光ってゆらゆらしています.
このコースティクスという現象は光の振る舞いを現実と同じように計算する必要があります.しかしコースティクスは計算コストが高いためデフォルトではオフになっています.
それではコースティクスを有効にしていきましょう.「レンダリング設定」を開きます.(ショートカットCtrl+B)

「レンダラー」が「Redshift」になっていることを確認し,
「モード」…「アドバンス」
にします.
アドバンスモードではレンダリング設定をより細かく調整できるモードです.Redshiftの設定を開いて
「コースティクス」…「オン」
「コースティクスエンジン」…「フォトン」
にします.
作例では「フォトン」を使いますが,「ブルートフォース」というモードもあります.ブルートフォースの方が設定が簡単ですが,大きさのないライトに対応していないので,無限遠ライトからのコースティクスが描画できません.
そのため,今回はフォトンを使用します.
また,フォトンのほうがよりくっきりとしたコースティクスを描画しやすく,ブルートフォースはややぼやけたコースティクスになりやすい特徴もあります.
設定のしやすさや,対応するライトが異なるため,どちらが適しているかはシーンによって変わってきます.

RSレンダービューに戻り,
「バケットモード」…「オン」
にします.コースティクスはバケットモードでないと正確に確認できません.すると次のようにノイズまみれの画像になります.また,レンダリング時間もかなり長くなります.

ここからコースティクスを綺麗にしていきます.コースティクスはライトからフォトン(光子)を放射して現実の光の振る舞いを模倣していくフォトンマッピングというアルゴリズムを使うことで描画しています.シーンの屈折や反射によりフォトンが進む向きが変わることで,フォトンが密集しているところがより明るいコースティクスとなります.
コースティクスの計算コストが高いと先に書きましたが,特にドームライトからのフォトンとコースティクスは正確に計算するのがとても困難です.
専門的な内容は割愛しますが,ドームライトは全方向から光を放射,光が拡散する性質のため,フォトンモードでは綺麗なコースティクスを描画しにくいライトです.ブルートフォースはドームライトのコースティクスと相性が良いですが,無限遠ライトに対応していないのがデメリットですね...
そこで,ドームライトのコースティクスは基本的に「オフ」にして使用していきましょう.
ドームライトを選択し,「詳細」タブを開き
「コースティクスをキャスト」…「オフ」
にします.これでドームライトのコースティクスは計算しません.

ドームライトのコースティクス計算を除外したことで,レンダービューでは次のようになっていることと思います.プール底に無限遠ライトからのコースティクスが見えていますね.ただ,あまり綺麗ではなく,まだコースティクスがノイズのように見えます.

より綺麗なコースティクスを描画するためにはよりたくさんのフォトンが必要なのと,適切はフォトン探索半径を設定する必要があります.
フォトン探索半径をあげます.「レンダリング設定」の「コースティクス」タブを開いて
「ぼかし半径」…「5」
にします.ぼかし半径が大きくなると,距離の近いフォトンの輝度をぼかしてなめらかにしてくれます.


ある程度なめらかになりましが,コースティクスがまだらです.これはフォトンが足りていないということなので,次は無限遠ライトから放射するフォトン数を増やします.
無限遠ライトを選択し,「詳細」タブを開いて
「フォトン倍率」…「10」
にすると,フォトン数が増えたことによりコースティクスがよりなめらかで綺麗になります.ただし,レンダリング時間もかなり長くなります.


カメラの設定
カメラアイコンからシーンに新規カメラを追加します.

オブジェクトマネージャのカメラアイコンをクリックして追加したカメラへ切り替えます.

カメラを選択して「オブジェクト」タブを開き
「焦点距離」…「40」
とします.

「座標」タブを開き
「P.X」…「150㎝」
「P.Y」…「700㎝」
「P.Z」…「-500㎝」
「R.H」…「25°」
「R.P」…「-55°」
「R.B」…「0°」
としますが,アングル自体は好みの構図で構いません.

作例ではカメラは固定のため,カメラアングルが決まったら移動しないようにロックをかけておくとよいです.カメラを選択してタグメニューから「リギング タグ」→「ロック」タグを適用します.

さらに追加の要素
もしお気に入りのキャラクターオブジェクトなどあれば浮き輪と同じ階層に配置してみるのも良いでしょう.浮き輪と一緒に動くことになります.

レンダリング
最後にアニメーションをレンダリングします.
レンダリング設定を開き(Ctrl+B)「出力」セクションを開いて
「フレームレンジ」…「全てのフレーム」
とします.

保存セクションを開きます. 「保存」にチェックを入れ,「ファイル」欄にレンダリング画像を保存するディレクトリおよびファイル名を指定します. 「フォーマット」はPNG連番としておきます(お好みで可).


150フレームあるので時間はある程度かかりますが,完了した連番画像をAfter Effectsなどで動画として出力してください.
いかがだったでしょうか.
今回のチュートリアルでは、
クロスシミュレーションと頂点マップで形状を,
コンストレイントでアニメーションをコントロールし,
コースティクスで光の再現まで表現する方法を紹介しました.
独立した技術として学ぶと何に使うかよく分からない点があると思いますが,簡単なシーンでもよいので組み合わせて使うと,どんなことに応用できそうか見えてきそうですね.
ぜひ、自分の作品でもいろいろ試してみてくださいね!